大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1679号 判決

2 民事訴訟における証拠保全の鑑定は、多くの場合、物を対象とするものであり、これを所持する相手方又は第三者は鑑定人の資料蒐集調査に協力義務(鑑定受忍義務)を負わないし、鑑定人も強制力を用いることはできないから、鑑定人が目的物を実況見分し、あるいは文書の検閲のためその提出を求めても、相手方又は第三者はこれを拒否することができるものと解される。

これを本件についてみるに、本件証拠保全決定に基づく鑑定は、訴外黒川の傷害の部位、程度、右傷害を負うに至った原因につき鑑定を行うものであり、黒川は同証拠保全の申立人であるからその同意を得られない事態は考えられないけれども、同人が被疑者として警視庁留置場(監獄法一条三項の代用監獄)に留置され、かつ、接見禁止となっているから、その留置業務の責任者である留置管理課長は、あたかも鑑定目的物の所持者がその提出を拒む自由を有するのと同様に、鑑定に協力するか否かを任意に決定しうるものというべく、したがって、鑑定人である控訴人森及びその同行者である他の控訴人らと黒川との接見を拒否したとしても、そのこと自体違法とはいえない。

3 しかしながら、控訴人らは黒川との接見のため裁判官の発した本件接見許可決定書(謄本)を持参提示しているので、この点から被控訴人らの右接見拒否の適法性を検討する。

前鑑定事実に照らすと、控訴人らは刑訴法三九条の弁護人又は弁護人となろうとする者として接見を求めたものではなく、もっぱら、民事証拠保全としての鑑定のため接見を求めるものであり、本件接見許可決定は、接見日時として、当日午後六時三〇分から同日午後七時三〇分までの間で、かつ、鑑定の終了時までとし、接見内容として、「証拠保全決定に基づく鑑定のため」と指定したものであったこと、被控訴人平田は、控訴人らに対し、右鑑定には強制力がないこと、既に検証も済んでおり、鑑定の必要性に乏しいことなどを告げてこれを理由に接見を拒否したことが認められる。

ところで、接見許可決定は、刑訴法八一条に基づく接見禁止を一部解除し、その限りで同法八〇条の接見交通を可能ならしめるものであり、これにより被疑者又は被告人が右許可を受けた者と法令の範囲内で接見することが可能となるのみで、それ以上に留置場管理者に対し接見をさせるよう命令するものではない。

他方、監獄法五〇条、同法施行規則一二一条によると、接見時間を三〇分以内とし、同規則一二二条では接見を執務時間内でなければ許可しないものと定める反面、同規則一二四条では、監獄の所長は処遇上その他必要に応じて右制限によらないことができると規定している。

したがって、本件において、裁判官による接見許可決定が執務時間外の接見時間を指定しても、留置管理課長は、当該接見の目的、場所、留置場の戒護体制など諸般の事情を考慮し、捜査上、保安上支障のない限度でのみ接見を許可しうる裁量権限を有するところ、被控訴人平田は、本件接見許可決定がもっぱら鑑定のためのみであって、鑑定に強制力のないこと、接見時間を執務時間外に指定していること、黒川の受傷の部位、程度等につき、同人受傷の翌日である昭和五七年一〇月二八日に丸の内警察署の嘱託医による診断、同月二九日東京地方裁判所裁判官による証拠保全の検証、同月三〇日警察病院における診断等がなされており、受傷後約一週間を経た時点で改めて鑑定を行う緊急性、必要性に欠けるものと判断されること等の事情を参酌して控訴人らの本件接見を拒否したものであること、前認定事実に徴し明らかである。

そうすると、被控訴人平田を通じて行われた留置管理課長の本件接見拒否につき、相当の合理性があり、裁量権逸脱の違法もない。

4 勾留処分の主体は、裁判所又は裁判官であって、留置場管理者は勾留状の執行による被疑者ないし被告人の身柄を管理し、確保すべき職責を有するが、それは裁判官の指揮を受けて行うものではなく、独立、固有の権能に依拠して遂行されるものであって、裁判官との間に上命下服の関係が生ずるものではない。したがって、留置管理課長が裁判官の発した本件接見許可決定により接見を求めた控訴人らに対し自己の有する前記裁量権に基づきこれを拒否したからといって、そのこと自体が違法となるものではない。

5 控訴人らは、訴外黒川に関する捜査担当の米沢検事が本件接見許可決定に先だち、一瀬弁護士に対し東京地方裁判所の裁判官による求意見につき「然るべく」と回答する予定であると告げたことから、本件接見拒否は禁反言則違反であると主張する。

しかしながら、留置場の職務遂行、ことに民事証拠保全決定に基づく鑑定の実施についてまで捜査担当検事の指揮命令が及ぶいわれのないことは明らかであるから、右主張は採用の限りでない。

もっとも、弁論の全趣旨によれば、検察官は、刑訴法三九条三項の規定による接見等に関する指定を必要とする事件について、あらかじめ接見の日時、場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する旨記載した「接見等に関する指定書」(一般的指定書)を被疑者の在監する監獄の長に交付しておき、弁護人から接見要請のある度に具体的な接見日時、時間、場所を記載した指定書(具体的指定書)を交付し、監獄では弁護人が右具体的指定書を持参しない限り被疑者との接見を拒否する取扱いが行われている(法務大臣訓令「事件事務処理規程」二八条)ことが窺われるが、これは弁護人らがなんらの連絡もなしに接見に赴き取調べ中のため接見を拒否されることによる無益な時間と労力の浪費を回避するための実務的慣行であると解され、これにより検察官が監獄の職務執行についてまで指揮権を有するとか、監獄における被疑者等の身柄の管理につき代弁する立場にあるものとは到底解し得ないから、右も前記結論になんらの消長を来すものではない。

(舘 牧山 赤塚)

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